【症例】エムドゲインによる奥歯の歯周組織再生療法|6mmの垂直性骨欠損 治療前と7年後

他の歯科医院で抜歯をすすめられて来院された50代の女性の方の症例です。検査の結果、ご本人に自覚症状のなかった左下の奥歯(第二大臼歯)に、深さ6mmの垂直性骨欠損が見つかりました。この部位にエムドゲインを用いた歯周組織再生療法を行い、約7年間経過を観察しています。

上の写真 左:治療前/右:治療から約7年後(パノラマレントゲンの一部を拡大)。治療前と7年後では使用したパノラマX線撮影装置が異なるため、画質や写り方に違いがあります。

症例の概要

患者さん 50代・女性
主訴 「歯周病が進んでおり、他の歯科医院で抜歯をすすめられました。右上の奥歯がゆれて、時々痛み、しみる症状があります。」
診断 歯周炎。左下第二大臼歯の遠心(奥側)に深さ6mmの垂直性骨欠損(ご本人の自覚症状はなし)
治療内容 歯周基本治療(歯石除去・ブラッシング指導など)のあと、左下第二大臼歯にエムドゲインを用いた歯周組織再生療法(自費)を1回実施。ほかの部位には保険診療のフラップ手術を合計3回実施
治療期間 2018年3月 初診
2018年3月〜7月 歯周基本治療(約4か月)
2018年8月〜 歯周外科治療(左下のエムドゲインは2018年9月)
2019年12月〜 メインテナンス(現在も継続中)
費用(税込) 歯周組織再生療法(エムドゲイン)1術野 4歯まで 220,000円(自由診療)
※現在の料金です。フラップ手術・基本治療・メインテナンスは保険診療です。
経過 左下のエムドゲインを行った部位は、約7年間、大きなトラブルなく経過しています。
他院で抜歯をすすめられた主訴の右上の奥歯も、現在も抜かずに使えています。

治療前の状態

来院のきっかけは右上の奥歯の揺れや痛みでしたが、お口全体の歯周ポケット検査とレントゲンを行ったところ、左下第二大臼歯の奥側に、歯の根に沿って骨が深く下がっている「垂直性骨欠損」(深さ6mm)が見つかりました。痛みや腫れなどの自覚症状はありませんでした。

歯周病は、このように自覚症状がないまま骨が失われていくことが少なくありません。気になる歯だけでなく、お口全体を検査することが大切です。

垂直性骨欠損は、横に平らに骨が下がる「水平性骨欠損」と比べて、歯周組織再生療法の効果が出やすい骨の形とされています。

治療の流れ

  1. 歯周基本治療(約4か月):歯石の除去、ブラッシング指導などで、お口全体の炎症を落ち着かせました。再生療法は、炎症が落ち着き、毎日の歯みがきができている状態で行うことが成功の条件です。
  2. 再評価:基本治療のあとも深い歯周ポケットが残った部位に、外科治療を計画しました。
  3. 歯周外科治療:左下第二大臼歯にはエムドゲインによる再生療法を、ほかの部位には保険診療のフラップ手術を行いました。
  4. メインテナンス(2019年12月〜):定期的に通院いただき、歯周ポケットの検査とクリーニングを続けています。

約7年後の状態

治療から約7年後のレントゲンでは、骨が失われていた部分に骨と同じような像がみられ、歯を支える骨の高さが保たれています。

また、他の歯科医院で抜歯をすすめられていた右上の奥歯(主訴の歯)も、保険診療のフラップ手術とその後のメインテナンスにより、約7年たった現在も抜かずに使えています。

※レントゲンは骨の形を見るもので、歯と骨をつなぐ組織が本当に再生したかどうかまでは、レントゲンだけでは判断できません。歯周ポケットの深さなどの検査とあわせて評価しています。

なお、この患者さんは、メインテナンスの中でほかの部位(左上)の歯周ポケットが再び6〜7mmと深くなってきたため、今後その部位に再生療法を行う予定です。歯周病は治療をしたら終わりではなく、定期的な検査で変化を早く見つけ、必要に応じて対応していくことが大切です。

エムドゲインとは

エムドゲインは、歯が作られるときに働くたんぱく質を主成分とするゲル状の材料で、歯周病で失われた歯根膜・セメント質・骨の再生を促します。日本で承認を受けた医療機器で、当院では自由診療で使用しています。

骨の欠損が大きく、歯ぐきを支える骨の壁が少ない場合には、骨補填材を一緒に使うこともあります。研究では、骨補填材を併用すると付着(アタッチメント)の獲得量がやや大きくなる傾向が報告されています(Matarasso 2015)が、差は小さく、すべての欠損に必要なわけではありません。この症例では、欠損の形からエムドゲインのみで治療を行いました。

エムドゲインの効果についての研究

  • コクランレビュー(Esposito 2009、13の研究)では、フラップ手術のみと比べて、エムドゲインを使った場合は1年後のアタッチメントの獲得が平均約1.1mm、ポケットの減少が平均約0.9mm大きかったと報告されています。
  • ヨーロッパ歯周病学会のガイドライン(Sanz 2020)では、深い骨内欠損が残る歯に対して、歯周組織再生療法を行うことが推奨されています。
  • 長期の追跡研究では、エムドゲインで得られた結果は、定期的なメインテナンスを続けることで10年後も保たれていたと報告されています(Sculean 2008)。

詳しい仕組みや適応は、歯周組織再生療法(エムドゲイン)のページで解説しています。

治療のリスク・副作用

  • 手術後に腫れ・痛み・出血が出ることがあります(多くは1週間ほどで落ち着きます)。
  • 歯ぐきが下がり、歯が長く見えたり、冷たいものがしみたりすることがあります。
  • 骨の再生の程度には個人差があり、期待した効果が得られない場合があります。
  • 喫煙、糖尿病のコントロール不良、歯みがきが不十分な場合は、効果が下がりやすくなります。
  • エムドゲインはブタの歯の組織から作られた材料です。抵抗のある方は事前にご相談ください。
  • 治療後もメインテナンスをやめると、歯周病が再発することがあります。

この症例から伝えたいこと

  • 歯周病は、自覚症状のない歯でも骨が深く失われていることがあります。
  • 他院で抜歯をすすめられた歯でも、歯周病の治療とメインテナンスで残せる場合があります(すべての歯が残せるわけではありません)。
  • 深い垂直性骨欠損は、骨の形によっては再生療法で歯を残せる可能性があります。
  • 治療の結果を長く保つためには、定期的なメインテナンスが欠かせません。

「抜歯と言われた」「歯がぐらぐらする」という方も、一度ご相談ください。歯周病専門医が、レントゲンや歯周ポケット検査をもとに、再生療法が適しているかどうかを診断します。

関連ページ

参考文献

  1. Esposito M, et al. Enamel matrix derivative (Emdogain®) for periodontal tissue regeneration in intrabony defects. Cochrane Database Syst Rev. 2009;(4):CD003875.
  2. Sanz M, et al. Treatment of stage I–III periodontitis—The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2020;47(Suppl 22):4-60.
  3. Matarasso M, et al. Enamel matrix derivative and bone grafts for periodontal regeneration of intrabony defects. A systematic review and meta-analysis. Clin Oral Investig. 2015;19(7):1581-1593.
  4. Sculean A, et al. Ten-year results following treatment of intra-bony defects with enamel matrix proteins and guided tissue regeneration. J Clin Periodontol. 2008;35(9):817-824.

※掲載している症例は、患者さんの同意を得て掲載しています。治療の効果には個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるわけではありません。
執筆:福嶋歯科医院 院長 福嶋 太郎(日本歯周病学会 歯周病専門医)

治療前
治療前
治療後
治療後

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